セイコームーブメント比較!7S26・7S36・4R36・6R15の違いは?
セイコーの機械式腕時計には下記のムーブメントが使われています。
- 7S26
- 7S36
- 4R36
- 6R15
- 8L35
- 9S65 など他多数
このようにキャリバーを列挙しても詳しい人でない限りよくわからないかと思います。
セイコーの機械式腕時計に興味あるけどスペックはどれがいいの?何を選んだらいいの?
今回はそれらの疑問にお答えしていきます。さらに7S系、4R系、6R系の違いと精度テストの結果もまとめました。
正直、マニアックな内容になってしまうので先に結論を言っておきます。スペックの差はありますが何を選んでも問題なく普段使いできるスペックを満たしています。予算や求める機能などに注目して選べばOK。もし、それ以上に興味がありましたらこの先も覗いていってもらえればと思います。
目次
- 1 セイコーのムーブメント概要
- 2 7S26・7S36・4R36・6R15スペックの違い
- 2.1 7S26/7S36
- 2.2 4R36
- 2.3 6R15
- 3 7S26・7S36・4R36・6R15精度日差測定
- 3.1 日差測定結果
- 3.2 振角について
- 3.3 片振り(ビートエラー)について
- 4 7S26・7S36・4R36・6R15の耐久性
- 4.1 衝撃時の耐久性は高い
- 4.2 メンテナンスなしの耐久性も高め
- 5 7S26・7S36・4R36・6R15のオーバーホール
- 5.1 オーバーホール料金が安い
- 5.2 ムーブメントの価格が安い
- 6 7S26・7S36・4R36・6R15まとめ
セイコーのムーブメント概要
機械式腕時計といえばスイスブランドをイメージする人もいるでしょう。そのスイスブランドの中でもムーブメントを設計・開発・製造を自社で一貫しているのは一部の高級ブランドに限られます。セイコーの場合はお手頃なセイコー5から高級なGSまで自社製ムーブメントが搭載されています。セイコーのメカニカルウォッチは数千円~数十万円と幅広く価格帯ごとに搭載されるキャリバーがおおよそ決まっていますこちらが、セイコーの3針時計の主なキャリバーです。
- 7S26(セイコー5)
- 7S36(セイコー5スポーツなど)
- 4R36(ダイバーズ系、プレザージュ、セイコー5など)
- 6R15(ダイバーズ系、プレザージュなど)
- 6L35(上位プレザージュなど)
- 8L35(プロスペックスなど)
- 9S65(グランドセイコー) など
上の方が安価ライン、下の方が高級ラインになっています*これら以外にも様々な機種が派生しています。このように見ると、ざっくりですが7S系→4R系→6R→8L系→9S系という階級になっています。
どれも機械式腕時計として求められる精度を満たしているので安価な7S系でも安心して普段使いできます。
7S26・7S36・4R36・6R15スペックの違い
次に各ムーブメントのスペックをまとめました。*参考までにグランドセイコーの9S65も載せてますがやや次元が違いますので詳しくはこちらをどうぞ。>>グランドセイコー9S65ムーブメントの評価&レビュー表の赤文字は4つのムーブメントの中でもっとも良いところです。ざっくりまとめるとこんな感じです。
- 7S26/36:ベーシックな機種
- 4R36:7Sに手巻きとハック機能をプラス
- 6R15:4Rよりも精度と駆動時間が優秀
では各ムーブメントについてざっくり説明していきます。
7S26/7S36
7S26と7S36は時刻合わせ時に秒針を停止させるハック機能がなかったりゼンマイを手巻きする機能がありません。人によっては不便さを感じるかもしれませんがすぐに慣れると思います。むしろ、その分ムーブメントはシンプルな作りでパーツ数も少ないので購入費用やオーバーホール代、耐久性に有利です。しかも精度、パワーリザーブ、デイデイトはちゃんと確保されていてコスパ最強のメカと言えます。7S26や7S36を搭載したモデルのレビュー記事はこちら>>>SNK803とSNZH55最強説!セイコー5マニア 激推しの理由
4R36
4R36は7S系と共通パーツがかなり多くまさに7S系に手巻き&ハック機能をプラスした感じです。その分7S系よりも価格は上がりますが、時刻合わせやゼンマイの巻上げができて便利です。細かい話ですが4R36は6R15よりも石数が1つ多いです。ただ、21石もあれば十分事足りるのでこの差は気にしなくても良いと思います。4R36搭載モデルのレビューはこちら>>>セイコー5スポーツ SRPDを徹底レビュー&カスタム一挙公開!
6R15
6R15は4R36よりもパワーリザーブと精度が優秀で、巻上げ効率も上がっていると感じます。筆者の感想ですがデスクワークであまり腕を動かさない場合・7S36は次の日の朝に止まる・6R15は動いているといった感じ。ゼンマイやテンプ等は6R15の専用品ですが70~80%は7S系や4R36と共通のパーツが使われています。精度についてはこの後計測結果をもとに解説していきます。6R15搭載モデルのレビュー記事はこちら>>>セイコーSARX035をマニアブログがレビュー!革ベルト交換が超おすすめ
7S26・7S36・4R36・6R15精度日差測定
カタログスペックがわかったところで実際に各ムーブメントの精度チェックをしました。4本全て新品購入時のものを十分にゼンマイを巻き上げてからタイムグラファーで測定しました。また、機械式腕時計の特性上、同じ個体でも姿勢によって精度が異なりやすいので6姿勢で測定しています。今回の試験はあくまで参考値として考えてください。
日差測定結果
測定結果を元に平均日差を出すとこんな感じです。
- 7S26(SNK623)→平均 +2秒/日
- 7S36(SNZH53)→平均 +12秒/日
- 4R36(SRPD55)→平均-5秒/日
- 6R15(SARX035)→平均 +11秒/日
4機種の測定結果から言えることは
- どれもカタログ精度は満たしている
- 平均値が良くても姿勢によってバラつく
- どれも日常生活で十分使えるレベル
6姿勢の平均日差を比べると7S26が+2秒/日で最上位の6R15は+11秒/日となりました。これだけだと7S26に軍配が上がりますが話はそう単純ではありません。姿勢によるズレを比べるとこんな感じです。
- 7S26:最大+10秒
- 7S36:最大+11秒
- 4R36:最大+22秒
- 6R15:最大+6秒
標準偏差で比べても6R15はズレが小さいです。平均日差が良いよりも姿勢差のバラつきが少ない方が好ましくやはり6R15が優っていると思います。ちなみにグランドセイコーを例にとると9S系は多くの工程で職人の手が入り、入念な調整やテストの結果姿勢ズレが少なく、平均日差 ±数秒という優秀なムーブメントに仕上げられています。
振角について
振角についてもざっくり説明しておきます。ムーブメントの中を見ると忙しく動いている円形のパーツ(テンプ)があります。時計の精度はこのテンプの往復運動によって維持されています。振角はこの往復運動の大きさを示す数値で全巻き時で270°くらいになります。今回のテストでは姿勢差による数値の変動が確認されましたが200°以上はあり、スペック内の精度には十分収まっています。筆者の経験上、7S系、4R系、6R系ムーブメントは大体こんな感じです。ちなみに振角はゼンマイの巻上げが不足した場合でも小さくなります。振り角と日差の等時性理論曲線を見ると理論的には振り角100°くらいまでは-10秒/日に収まるようですがトルクも弱まっているので姿勢による精度差はかなり出てくると考えられます。
片振り(ビートエラー)について
片振りとはテンプの振角が中心に対して左右で異なっている状態のことです。タイムグラファーではモニター上に2本線に見えますが、この間隔が狭いほど片振りが小さいことになります。つまり理想的には1本線(0.0ms)だと左右均等に振れていることになります。今回のテストでは4R36の片振りが最も小さい結果となりました。ただ、この個体は姿勢差が大きいので何とかしようと思うならヒゲゼンマイの重心移動の影響やテン輪の片重りやなどの要因を考える必要がありそうです。経験上、7S系、4R系、6R系の片振りは1.0ms前後までに収まっていることが多いので、今回の個体はどれもOKだと考えています。
7S26・7S36・4R36・6R15の耐久性
7S系、4R系、6R系の耐久性についてこの2つのポイントで書いてきます。
- 衝撃時の耐久性
- メンテナンスなしの耐久性
衝撃時の耐久性は高い
ムーブメント内部で特に壊れやすいのがテンプの軸(天真のホゾ)です。とっても細くて、髪の毛の太さぐらいしかありません。コマの軸みたいなものでテンプの往復運動を支える重要なパーツです。昔の機械式腕時計は落としたり、ぶつけたりすると、この天真のホゾがよく折れていました。それを解決するため、現在の時計には軸受けに耐震装置が設けられています。原理は簡単で、ホゾの軸受けにバネのようなクッション性をもたせています。そして、もし大きな衝撃が加わったらホゾが折れる前にバネが外れて折れないようにしてあります。復旧については外れたバネを戻すだけなのでホゾが折れた場合と比べて修理代は安く済みます。ただ、強い衝撃が加わっているので他の場所にダメージがあったり精度が悪くなっていれば修理や調整が必要になってくるでしょう。ちなみに耐震装置は色々種類があるので、メーカーによって呼び名は違います。基本原理は同じですが。
- セイコー:ダイヤショック
- シチズン:パラショック
- スイスウォッチ:インカブロック、キフショック等
あくまで、筆者の経験ですが7S36搭載の時計を約120cmの高さからうっかりコンクリート地面に落としたことがあります。
セラミック製のベゼルインサートは割れましたがムーブメントは無事でした。ダイヤショックも外れてなかったのでそのまま使い続けています。かれこれ5年使っていますが、まだスペック範囲の精度は保っています。
メンテナンスなしの耐久性も高め
機械式腕時計は3~5年に一度中のメカをバラして掃除、注油する必要があります。でもメンテナンスしなかったからと言ってすぐに壊れるわけではありません。ネットを見ているとセイコー5を愛用している人の中には10年以上メンテなしで使い続けているケースを見かけます。筆者の周りでは職場の同僚が今年8年目に突入したセイコー5を使っています。さすがに1日1分ぐらいはズレるとのことですが十分に使えるレベルです。ただ、本来はオーバーホールをするのが望ましくずっとメンテしてない時計は中のパーツは油ぎれや劣化が進み、磨耗している可能性が高い状態です。
7S26・7S36・4R36・6R15のオーバーホール
オーバーホール料金が安い
スイスウォッチの3針モデルのオーバーホール料はざっくり3~5万円です。それに対して7S26・7S36・4R36・6R15のオーバーホールの相場は1万円~2万円台とわりと手頃な感じです。
ムーブメントの価格が安い
実際に7S系~6R系をメンテに出す場合新しいムーブメントを載せ替えるかオーバーホールをするかの2択になるでしょう。新しいムーブメントでも同じくらいの価格か、少し安くすむかもしれません。ムーブメントの価格はこんな感じ
- 7S26 3,000~4,000円
- NH36(4R36同等品) 5,000~6,000円
- 6R15 20,000円前後
7S26やNH36はコスパが良いですが、6Rは高く感じます。確かにテンプやゼンマイは6R専用が載っていますが、大半が共通パーツで構成されていることを考えるとちょっと高めな印象です。需給のバランスで価格が決まっているかもしれませんが。ちなみにNH36はセイコーインスツル(旧第二精工舎)が4R36を社外販売用に作ったもので、同等品と考えてOKです筆者は7S36搭載の時計を4R36にアップグレードさせるときにオークションやebayなどの海外通販サイトで入手することが多いです。
7S26・7S36・4R36・6R15まとめ
4つのムーブメントの違いについて以下のポイントを解説してきました。
- スペックの違い
- 精度日差測定
- 耐久性
- オーバーホール
スペックや精度に若干の差はありますが基本的な作りは同じです。いずれも耐久性には定評があり、オーバーホールもスイス勢と比べると安価です。
安めで便利な4R36がオススメですがどれも問題なく使えるので予算や機能などに注目して好きなのを選んでOKです。
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